クレイモア SSS

屑男・撲滅委員会!

 腕の中から、いきなり命が消えた。 と、思った瞬間生まれた腹部の激痛。

 私は、膝を床に落とした。 

 超常現象並の出来事の上に、かつて感じた事のない痛みが、私の思考回路を狂わせる。

 だが私は、結局パニックを起こす事はなかった。

 理由は一つ。こうしている間も、命が助けを求めて私を呼んでいるからだ。

 まだ闇に馴れていない私の目には、宙に浮いた様に見える命の姿と、二人の男の顔だけが見えていた。

 闇の中の不意打ちとはいえ、私に奪われた事さえも気付かせずに命をさらった手並み。 同時に後ろに回り込んで、躊躇なく簡単に、私の体に風穴を開けた冷静さと技術。

 そんな連中が、ただの物取りやストーカーであるはずがない。 プロの殺し屋か、それが飛躍しすぎだったにせよ、人を傷つける事を手慣れている、と言うだけでは片づけられない連中だ。

「...このガキ、よく俺達が見えたな。」

 私が気絶、そうでなくても動けないと思っているのか、暴漢二人は低い声でしゃべりだした。

「ああ、驚いて心臓外しちまった。」

 なるほど、本当は私を一撃で殺すつもりだったわけだ。 それにしても、仮にコイツ等がプロの殺し屋だったにせよ、レベルは低い。

 ターゲット目の前にして、おしゃべりに興じたりなんて、少なくとも私なら絶対にしない。

 しかし、手負いの私が命を助け出すためには、過信だらけのコイツ等の態度は都合がいい。 正直、この怪我ではコイツ等二人を倒すのは難しい。最悪、命だけでも逃がさなければ。

 聞き耳をたてながら、チャンスをうかがう。 

「ターゲット、こいつらで間違いないな?」

「ああ、ほら。」

 あの写真は、最近、葉書にプリントして郵便で送ったものだ。それも、たった二人にしか送っていない。

 一人は、皆月京次。

 そして、もう一人は私のお父さん、

と言うより、

”雪之絵の家”だ。

 朧げながら見えてきた。

 膨大な財産を要する”雪之絵の家” その直系は私の実の母親。 お父さんは婿養子で、その再婚の相手は、言うまでもなく血筋でもなんでもない。 私こそが直系、そして次ぐのは、命。

 随分とまあ、

 くだらない理由でやってくれる。

「さて、このガキの方は連れてこいって言ってたよな。」

「ああ、」

 財産目当て、そう考えた私に不可解な言葉が聞こえた。 財産目当てなら、命は私と一緒に殺せばすむはず。

他に何か理由があるのか。

 だが、これ以上考えてる時間はさそうだ。 二人の暴漢は、やっとこの場所に自分達が居る理由を思い出したらしい。

 私は身じろぎ一つせずにその時を待つ。

「物取りの犯行と思わせるより、やっぱり女二人暮らしを狙った暴行魔と思わせた方がいいだろうな。」

「しかし、年増の方は刺しちまったぞ?血だらけ覚悟でヤるのか?」

「心臓止めて死体にしちまえよ。 ポンプ代りがなくなりゃ血はそれほどでもねえ。」

「なるほど、でも、お楽しみはこっちだよな。」

 二人の内、一人の視線が命に向いた。

「まーな、結果的に生かして連れて行けば問題無いだろ。」

 もう片方の視線も又、命に向いた。

 この時を待っていた。

私から二人の視線が外れる、この瞬間を。


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