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どき、どき、どき、どき、
布団をすっぽり被った命は、激しく動く心臓に痛みを感じるほど興奮しながら、京次が再びあらわれるのを待った。
きっと高熱の頂点だった時に匹敵するほど、赤い顔をしているだろう。
京次は初めしぶっていたが、最後には命の体を拭く事を了解した。 拭いてる間に熱が上がらないかと心配する京次を、一人娘の顔全開で説得したのだ。
所要時間、十分。 思いのほか簡単だった。
命は全然折れる気がなかったのを、京次も分かっていた。と言うのも理由の一つである。
「用意出来たぞー。」
洗面器に入ったお湯を零さぬように、ゆっくりとドアを空ける音とともに、その声が聞こえた。
たっぷりとお湯の入った水色の洗面器をカーペット上に置いて、タオルを浸し絞る。
一方の命は、まだ布団を被ったままだった。
「どうした?もしかして気分が悪いとか?」
京次の心配そうな問いかけに、命は勢いよく頭を振った。
そうではない。 今更だが、ここに来て恥ずかしくなっただけだ。
「.....」
のそりと上半身を起こす。 やはり顔が真っ赤だ。
「一人でパジャマ脱げるか?」 命の様子にまったく気が付いていない京次。
一つ、二つ、とボタンを外して行く。 熱とは違う理由で動きが遅い。
四つ、五つ、そして全部のボタンが外れた。
ちなみに、最近まで一緒にお風呂に入っていたのだから、京次の前で裸になる事自体はそれほどでもない。 しかし、背中を流してもらった事はあっても胸やなんかを洗ってもらった事はない。
即席で考えたパパ誘惑作戦、『膨らんでいる女の部分を触らせれば、パパとて反応するはず。』だったが、自分自身の羞恥心は計算に入れていなかったのだ。
ブラは付けていないので、パジャマの前を開けば、それだけで行動終了だ。
!!!
盲点を思い知らされた。
一旦開きかけた、パジャマの前を、強く抱きしめるように閉め直す。
「...どうした。本当に気分悪いんじゃないのか?」
心配そうに命の顔を覗き込む京次に対し、その目を見つめ返す。
「パパ、私の事嫌いにならないよね?」
一瞬、キョトンとした京次は、明るくもさわやかな笑顔を浮かべて答える。
「当たり前だ。 他に何を嫌いになっても、命を嫌いになる事だけは、ありえない。」
この言葉のため、命の腹は決まった。