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「ま、まあ、今までの様に生命の危機を心配する事はあるまい。」
焦る京次を余所に、雪之絵は特に気にしていないと言った具合に、涼しい顔をしている。
鳳仙家のヒットマンと共同で戦うのを見た為なのだろう。 正に怪我の巧妙だった。
今回、雪之絵と再会する目的の一つに、サラメロウは危険人物では無いと伝えるのもあったので、京次にしてみれば手間が省けた。
「ここからだと、覗かれてるみたいによく見えるな。 他にもこんな場所があるのか?」
「まね、沢山知ってるわよ?」
カーテンの向こうで、命がサラと暴れているのが、本当によく見える。
また、リビングの電気が燈れば、そこを利用しているのが解るし、命の部屋の電気が燈れば、命が自室で寛ぎ始めたのだと解る。
ここから見ているだけで、命達がどんな生活をしているのか手に取るように解るのだ。
「...こりゃ、住む所考えないとな。」
「大丈夫よ。 私が何時も見張っているんだから。」
「.....」
風が思いのほか強くなって来た。 その風を感じる度に、京次は身震いしている。
「寒い?」
「ああ、ここは寒いな。」
「でも、毒が抜けるまでは、我慢するしかないわよね。」
場所が小高い丘の上だけに、下界より強い風が吹いているのだろう。 とは言え、命達を見守れるこの場所から離れる気にはなれず、アパートに帰れるほど体調も回復していない。
雪之絵の言う様に、もう少しこのまま我慢するしかなかった。
「雪之絵、」
「ん?」
「お前は、寒くないのか?」
、
ここから見ると、本当に、アパートでの命の生活が良く分かる。
あのアパートで、命と暮らし始めて、もう十年。 当たり前の様に、二人だけの生活を送って来た。
たとえば夕立の時、傘を忘れ、学校から濡れて帰って来た命を暖めようと、一緒にお風呂に入った事がある。
冷える夜に、一人では寒いと京次の布団の中に潜り込んできた命を、抱いて寝た事もある。
それら全てを、雪之絵はどんな気持ちで見ていたのだろう。
季節気候を問わず、一人このような場所で、京次と命の暮らしを、どんな気持ちで見守ってきたのか。