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タケ子がその場に立っている事が、それほど以外だったのか、呆けて立ち尽くすアケミの頭の中に、カズ子の声が響いた。
「桐子(カズ子)!?もう完璧に加渓を操れるの!?」
『はい、今回のように遠隔操作でなければ、そこに居る雪之絵真紀だろうと、絶対に勝てます。』
頭に響くカズ子の声は、自信に満ちていた。 そして、これは決して過信ではない。 タケ子こと陸刀加渓を前にして、雪之絵真紀は完全に攻め手を失っていた。
象すら真っ二つに出来そうな斬馬刀。 少なくとも雪之絵真紀では、自在に操るどころか持ち上げる事さえ困難だ。
『ですが、今回は引いて下さい!今言った通り、遠隔操作では限界があります!』
「は、はははっ、ははっ!!」
「得たわ!切り札を!!もう少しで私の願いが適うわ!!」
陸刀アケミが高らかに笑い声を上げる中、陸刀加渓は自分の背丈の二倍はある斬馬刀を、無造作に足元に突き立てた。
地震ほど足元が揺れると同時に、爆裂する加渓の立っていた場所。
筒状に土埃が舞い上がり、空間に見えない煙突があるかの様な錯覚を起こさせた。
加渓の作り出した即席の煙幕は、その用途を完全にこなしながら、辺りを漂い続け、同時に沈黙と静寂を造り出す。
五感の遮断が造った『檻』に閉じ込められた雪之絵真紀は、屈辱の時間を過ごすしかなかった。
そして、幾ばくかの時間の後、視界の開けた雪之絵真紀の前に、加渓とアケミの姿は既に無い。