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「さて、どーしたものかね。」
京次は、アパートに帰るなり居間に座り込み、ここ最近口癖となってしまった台詞を吐く。
「だから、追い出せばいいのに。」 命のこれも、今や口癖だ。 しかし、それは出来ない。 サラメロウを追い出せば、どこかで見守っているはずの雪之絵真紀に抹殺されてしまう。
一方のサラメロウは、早々にテレビをつけて、それを眺めている。結局、京次からは、命はおろかサラさえも離れようとはしない。
「いや、別にサラが邪魔という事ではないんだ...。」 思わずフォローを入れた京次だが、とても白々しい。
命とサラメロウの、どちらかを預かってもらおうとしたのだから、この二人が一緒に居るのを、京次が困っているのは間違いない。
だが、それは間違いないとは言え、サラメロウを厄介払いしようと思った訳でもないのだ。 あくまで命とサラメロウのどちらかを預かってもらうのは、期間限定での話。
今回、サラメロウと同居する原因となった、病院での出来事。 これは、それを確信させるに充分過ぎる事件だった。
元々京次は、鳳仙や陸刀に負ける気はしていないが、これは別の重大な意味を持っている。
こればかりは、腕っ節で解決出来る問題ではない。
命を守るもう一人のガーデイアン、雪之絵真紀がどこかで命を見守っているのは解っている。 京次は、何とか雪之絵真紀とコンタクトを取りたかった。
命と同じ血を引く雪之絵真紀と話をして、二人の子供である命を救う方法を一緒に考えたかった。
しかし命と、サラメロウを二人きりにすれば、殺し合いの喧嘩を始めるのは確実。
ほとほと困り果てて頭を抱えていると、何を思ったのか、サラメロウが自分の義足を外しはじめた。
呆気に取られて、その様子を眺める京次と命の視線を気にしたサラメロウは、体を隠す為の青いマントをはおり、その後、再び自分の義足を外す行為を開始した。
両方の義足が外れ、畳に転がる。 そして、続いて両方の義手も。
サラメロウにとって、義手と義足はヒットマンの象徴としてではなく、身に付けていて初めて人並みに動ける、大切な本物の手と足なのだ。
ヒットマンとしての教育を受けて来たサラメロウ。 どんな姿であろうと危険である事は変りない。
だが、これはサラメロウが 『私は、今ここで問題を起こすつもりはないのだ。』 と、それを伝える精いっぱいの行動である事は、誰の目から見ても明らかだろう。
いや、
もし、これが解らないようでは、人としてその方が問題だ。
「しばらく、この家においてやってもいいよな? 命?」
京次が笑顔でそう問い掛けると、命はバツが悪そうに視線を逸らした後、小さく 「ん、」 と答えた。