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理想的と思われるスタイルを足首まで隠す、長めの黒いコートが風になびくと、それに合わせて金髪に近い茶髪が乱れる。
その髪の乱れを、軽く顔を背ける事で元に戻すと、周りで遠巻きに眺めていた女学生達が、跳ねる様に騒ぎ出す。
その女学生達が何を騒いでいるのかは、見ていたら分かる。
散歩により使われる、川沿いの道。
開けた場所にある為、待ち合わせの名所。
ただ立っているだけの皆月京次が、通り掛かりの女の子と、遅れてやって来たアケミを魅了する場所。
『会ってもらっている』という感覚が強い為、普段待ち合わせに遅れて来る事は少ないが、実は、アケミは京次を待たせるのは大好きだった。
「ゴメン!待った!?」
ここまでの道のりをタクシーで来たくせに、急いで走って来たフリをしながらアケミが声を掛けると、京次は必ず笑顔で迎えてくれる。
そして、遠巻きで京次を見ていた女学生達の落胆と嫉妬のため息。 この時こそ、アケミに取って私腹の時だった。
こんなにも素敵な男が待っているのは、この私なのだと。
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「ゴメン!待った!?」
声の聞こえた方に顔を上げると、アケミが手を振っているのが見えた。
京次は笑顔で手を上げて答えた後、空を見上げる。 夕食に丁度良いこの時間でも、六月の空はまだ明るさを残していた。
「もしかして、怒ってる?」
側までやって来たアケミの言葉。 京次が怒っているはずないのは解っているが、一応聞いてみる。
「まさか、それよりすまなかったな。 今日は無理矢理呼び出した様なモンだ。」
「珍しいわよね? 京ちゃんが、自分からどうしても会いたいなんてさ...で、どうかな? 初お目見えなんだけど?」
短くなった後ろ髪を、お約束通り手で払って見せる。
「ああ、似合っているよ。 でも、どうしたんだ? 世間一般だと失恋と言う事になるが。 」
「あれ? 私、京ちゃんにフラれた覚えないよわよ?」
やけに嬉しそうにしながら、スルリと腕を絡ませる。 自分は長い髪が似合う、そう思っているアケミは、京次がどう思うか内心不安だったのだろう。
「でも今日はもう遅いし、あんまりウロウロしてる時間はないね?」
「ああ、スマン。」
頭をかきながらそっぽを向く京次を、アケミは嬉しそうに見つめる。
今回、京次が会おうと言って譲らなかったのは、落ち込んでいるアケミを気にしての事だ。 段取りの悪さごとき、アケミが気にするはずがない。
「そっか、悪いと思っているんなら、今回は私の言う事を聞いてもらおうかな?」
京次から離れたアケミが、河川に向けて土手を下り始めた。 土手に生えた初夏の雑草は、生命力に溢れ、青々と茂り、京次の腰の辺りまで伸びている。
「おい!?」 良く分からない京次だったが、どんどん先へ行くアケミを放っておく訳にもいかず、自分も雑草だらけの土手に足を踏み入れる。
「アケミ。 お前大丈夫か? 草で足とか切るんじゃないか?」
コートで身を包んでいる京次は兎も角、必要以上に出しているアケミ柔肌など傷だらけにしてしまうと思った。
「ここら辺でいいかな?」 京次の心配を余所に、草むらをかき分けて、土手の真ん中辺りまでたどり着いたアケミは、自分の周辺を見回す。
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アケミにつられて、自分も辺りを見回すが、別段変わった所はない。
「なぁ? 一体どうしたと言うんだ?」
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