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以前、皆月京次が娘の身を案じて、セットで買った携帯電話。
今だ使い方の理解できない京次を尻目に、命の方は仲の良い友人関係全員に、自分の携帯の番号を教えていた。
最近、よく掛かって来る人物は、当たり前というか想像通りというか、命に特別な感情を示しているタケ子である。
『肩コリ?』
「違くて! 体中が痛いの!!」
自分の大声のせいで、体中の筋肉に電撃にも似た痛みが走る。 受話器ごしにタケ子のうめき声が、命にも聞こえた。
『...ホントなんだ?』
「冗談なんか言う必要ないでしょ?」
原因不明の筋肉痛。思わず泣いてしまう程辛い。
カズ子に操られ、普段使わない筋肉を酷使したせいなのだが、タケ子自身は操られた事すら知らない。
「何時もなら、カズ子が私の世話してくれるんだけど...ホラ、今カズ子足骨折してるじゃない?」
『そだね、私、あれからカズ子に会ってないよ。元気かな?」
「いや、カズ子はいいんだけど。 命、今日だけでも私の世話してくれない?」
『今日って、今から!?』
既に夕食も終わり、今からお風呂にでも入ろうと思っていた所だ。
「お願い命っ、 昨日から何も食べてないし、一人じゃ体も洗えないのよっ。」
『まるで、寝たきり老人だね。 ...でもー、今から、タケ子の所行くとして...帰るの随分遅くなるなぁ。』
「そんなの...」
受話器の向こうで、命の息を飲む気配が伝わって来る。
しばらくの静寂。 タケ子の方も、命が答えるまで何も言うつもりはない。
「...いいよ?」
まるで、囀るかのような小さな声。 しかし、タケ子にはしっかりと聞こえた。
沈黙の中で、命にどんな葛藤があったか想像に難しくはない。 しかし結局、今の命はタケ子と肌を合わせる快感を忘れられずにいるのだ。
タケ子は、今だけは筋肉痛に負けることなく、拳を握り締めた。
今まで、ほんの一時の秘め事でさえ無上の喜びを得られたのだ。まして、今日一晩使って命の肌を楽しめるとしたら、どれほどの快楽を得られるのか、まったく予想不可能だ。
タケ子の喜びは、これだけでも当然と言える。 しかし、彼女の本当の思惑は別の所にあった。
一晩全てを使い 、『命の、パパ一辺倒の想い。』を打ち砕く。
もし仮に一晩で足りないなら、命を家に返すつもりなどなかった。 虜にするまで、永遠に責め続けるつもりでいた。
「それじゃ、後でお金払うから、食事の材料買ってきてくれないかな? 荷物はそれだけで良いはずよ? 寝間着とか持ってきても使わないと思うしね。」
『...うん、』
「...」
『あー、それで寮の場所なんだけど...』
「ゴメン、命。」
『?』
「用事出来たから、この話はまた今度ね?」
『え!? ちょっと...』