クレイモア SS

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雪之絵が、まるで踊る様に臨戦態勢を整える。

その姿を見ていて俺は、なぜ雪之絵が事を起こすのに、こんな場所を選んだのかが分かった。

雪之絵は昔から、回転系の攻撃を好む。ストレートよりフック、前蹴りより回し蹴り、と言ったぐわいだ。

それは今でも変わっていない。ならば、せせこましい場所より、体育館の様に広い場所の方が戦いやすい。

「うふふ、それじゃあ行くからね。」

「はいつくばれ」  雪之絵の口がそう言っていた。

おそらく天性の才能であろうバランス感覚を生かして、次々と攻撃を繰り出して来る。

天は二物を与えず、と言うくせに、Sの性気質と天性のバランス、ろくでもない奴にろくでもない才能をあたえたものだ。

だが、やはり小学校の時と戦闘のパターンは変わっていない。はるかにグレードアップしているが、本質は一所だ。俺はたやすく躱す事が出来る。

両手を縛られ、かなりの出血をした俺だが、それでも負ける事は無い。なぜなら俺はこの四年間、自分を鍛えながら仮想雪之絵といつも戦っていたのだ。

雪之絵の攻撃は全て、手に取る様に分かる。

「あはははは!逃げてばっかりじゃ勝負にならないわよ!!」

.....ごもっとも。

「!!」

ドン!

「!!!」

ズザザザーーー!ドカン!!

すっ飛ばされて床を滑り、壁にぶち当たり止まった。

「....っ!」

ぶつかった痛みと言うよりは、ガードの時に使った右腕の痺れに身をよじっている。咄嗟に防御したのは流石だが、俺の蹴りを受けたのだ、しばらく使えまい。

「きょうじぃ...。」

多少ヨロつきながら立ち上がる雪之絵、決死の形相は痛みのためではないだろう。SであってMではない雪之絵は、自分が受けた痛みは怒りにしかならないのだ。

....本当ならば女に暴力を振るいたくはない、女に手を上げるヤツはクソ野郎だと思っている。しかし、それでも俺は、雪之絵を叩き潰す事に眉一つ動かさず、後悔の欠片も持たないだろう。

そうでなくては、俺のために酷い目にあった詩女に顔向け出来ないのだ。

雪之絵が向かって来る。

俺は少しだけ腰を落とした。


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