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「で、今日は、命ちゃんの誕生日で、欲しい物を買ってやりたい、と?」
紫色の長いソファーをベッド代りにしている一人の男が、天井を見ながら気もなげに呟いた。
「京ちゃん、やさしいね。」 俺の隣にいる一人の女も呟いた。
俺が座っているのも同型の紫色ソファーで、前には豪華に見えるテーブルがある。
「命のやつ、良い子なんだけどな。良い子すぎて、欲しい物欲しいって言わないんだよ。」
俺は言いながら、テーブルに置かれたコーラを手にとり、口に運ぶ。
テーブルを挟んで向こう側にあるソファーに寝ていた男が、眠た気に起き上がった。寝転がっていたせいで、黒のスーツがシワだらけだ。
黒のスーツを着込んだこの男の名前は、君寧 明人(くんねい あきと)、俺の学生時分からの友人だ。
初めは敵同士だったが、熱血漫画よろしく手を組んで悪さをした間柄だ。 昔は髪を赤と黄色に染めていたが、いい大人である今では、天辺の長い角刈りである。 元々ゴツイ容姿なので似合ってはいる。
ちなみにコイツ、金回りは俺よりも良い。 どうゆう経緯かは知らないが、今現在ソープランドの店長などやっている。
で、今、俺のいるこの場所が、そのソープランドの待ち合い室の一角な訳だ。
でっかいテレビがおいてある明るめの待合室は、二十畳近くあるらしく、かなり広い。 しかし、人気のある店なので、いつもソファーの半分は客で埋まっていた。
「良い子ならいいじゃない?何が不満なの?」
俺にべったりの、ここのソープランドのコンパニオン、”アケミ”(源氏名)が、俺にしなだれかかりながら、ただの言葉にさえ色を加える。 紫がかった髪と、同色のチャイナドレスが仕事柄以上の妖しさを彼女に持たせていた。
当然、客の待合室にコンパニオンが来てはいけないのだが、アケミは、店では若さに似合わず権力が強いらしく、俺が来る度に、こうやって俺の相手をしにやって来る。
理由は知らないが、俺にご執心で、言えないような事を進んでやってくれる。 オマケに外でのデートにもよく誘われるし、部屋にも呼ばれた事がある。
時には、二人で暮さないか?とまで言って来る。
まあ、好きだと言って来る相手をキライなはずもなく。第一、俺の回りにいる女性の中では、”アケミ”が一番普通だ。 残念ながら。
「不満って言うのとは違うんだが...」
「まったく、女にモテまくるのを、女難と勘違いするやつだけの事はある。」
言いよどむ俺に対し、呆れた様に明人が口を挟んだ。
「命ちゃんがどんなに良い子かは知らないがな、そりゃ、良い子だからお前に遠慮してるんじゃねえよ。
薄々、俺も想像していた事を、明人がズバリ突いた。