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「きょ、京次さん!?」
いきなり背を向けて歩き出した京次に驚いて、自称真紀の母が声を上げた。
「まあ、命を救う方法を教えてくれた事は感謝するよ。」
「待って下さい! 気持ちは解ります!!私だって真紀を犠牲にしてそれで良いなんて思うはずがありません!! でも、それしか方法がないんですよ!?」
すがり付こうとする自称真紀の母に対し、京次は少しだけ視線を返した。
京次の目からは、既に怒りの様な感情は見受けられない。 京次が申し出を断ったのは、正義感からだと思ったのだが、どうやらそうでは無いらしい。
その為、逆に自称真紀の母は言葉を失う。
「アンタ、一つ嘘ついてるだろ?」
軽い口調で言ったこの言葉を聞いて、自称真紀の母の顔色が変わった。
それを見て自分の考えが正しいと確信した京次は、満足気な笑顔を見せた後、再び歩き出す。
「京次さん!!解って下さい!!真紀があなたに何も言わないのが何故なのか解ってあげて!!」
京次は、軽く手を上げて見せたが、歩くのは止めなかった。
そう、
自称真紀の母は、一つだけ嘘をついた。
悪霊を封じられた雪之絵の娘。
もしその時に、母親がその場にいたのならば、我が子に悪霊を封じるなどという愚行を、絶対許しはしなかっただろう。
そう出来なかったのは、その時既に、雪之絵の娘の母親はこの世にいなかったと言う事だ。
『あん?』
『だから、私と貴時が今にも死にそうな場合、どっちを先に助けるか?って聞いてるの。』
『......』
『当然、後回しにされた方は死ぬのよ?...あと、絶対両方助けるってのは却下ね。』
京次が何か言おうとしたのを、詩女がピシャリと止めた。
『お前、その質問はキツイぞ。 そりゃ、子供の生命を一番に考えるのが正しいのかも知れないけどさ。』
『京次? これは現実にありえる話だと思わない? 絶対に二人とも助けるって言い張る男は沢山いるけど、私にしてみれば、これほどいい加減で無責任な答えは無いわ。』
『本当にそんな状況になった時、優柔不断で迷っている間に、二人とも死んでしまうからね。』
『いい?京次。 この究極の選択を迫られた時、あなたは迷わず子供の生命を選ばなければならない。』
『??』