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命とタケ子は、今、白いカーテンで所々仕切られた保健室の中に、二人きりでいる。
ベットに今だ目を覚まさない命を寝かせ、その横に、丸椅子に座ったタケ子がいる。
既に高森とカズ子は病院に連れて行かれ、高森の方は、治療後、しばらく入院するらしい。 先ほど、病院のカズ子から、タケ子の携帯電話に直接連絡があった。
現在面会謝絶だが、生命に別状はないらしく、安心したばかりだ。
タケ子がここにいるのは、名目上は命の付き添いだが、本当の所は、タケ子が侵入者に辱めを受けた事への、先生達の配慮だった。
今ごろ、教室では警察の現場検証が行われ、傍観者のクラスメートから詳しい事情を聞いている事だろう。
その話の中には、タケ子が弄ばれた事も、命の嘔吐と粗相の事も出ているはずだ。
命とタケ子の事情聴取は、二人が落ち着いてから。 そんな先生と警察の配慮である。
正直、タケ子に取っては、とてもありがたい。
ただ、今タケ子が頭を悩ませるのは自身が辱めを受けた事ではない。
寝ている命を眺めながら、はっきりと意識していた。 自分の命を見る目が、今までとは明らかに違う事を。
教室で、命がクラスメートに囲まれているのを見た時、タケ子は、他人に命の粗相した姿を見られるのが悔しかった。
先ほど、命を保健室に連れて来た時、保険の女医は、嘔吐と粗相に汚れた制服と下着を脱がせた後、命の体を丹念に拭いた。
そして、タケ子に持って来させた体操服を着せて、ベットに寝かすまでの間、タケ子は保険医に対してあからさまな敵対心を覚えていた。 その正体はタケ子自身理解している。
侵入者の一人(太郎)を破壊した後、命が自分を後ろから抱きしめ、耳元に囁いた事が引き金となったタケ子の感情の変化。
タケ子は男の子が好きな健全な女の子である。 本人はそう思っている。 だから、「命の事を好きなのか?」と聞かれたら、今はまだ答えられない。
しかし一つだけ、タケ子自身がはっきり理解している事がある。
「あ...」
ぼんやりと、命の事を考えていたタケ子は、寝ている命の口元に汚物がこびり付いているのに気が付いた。
胃液の乾いた跡だろう。保険医が拭いたはずだが、まだ少し残っていたと言う事か。
考えたら、命は教室で倒れてから今まで、目を覚ましていない。 保険医も口の中までは拭けない為、今だ命の口内は胃液で汚れている事になる。
「可哀相。」
雰囲気の変ったタケ子の言葉、心持ち息が荒い。
保険医に裸にされて、隅々まで拭かれても目を覚まさなかった命。
「綺麗にしたげる。」
キスぐらいで、目を覚ますはずがない。
言葉が終わると同時に、寝ている命の唇をタケ子の唇が塞ぐ。 命の後ろ頭を手で抱え、見るからに貪るようなキスだ。
散々、命の唇の柔らかさを堪能した後、少しだけ開いた唇から舌を差し込み、今度は口内の味を確かめる。
思った通り、命の口内は胃液の酸っぱい味がした。 タケ子は、その酸味をひたすら舌でなめ続け、いつしか命の口内に残っていた胃液は全てタケ子の胃の中に納まった。
たまに、保健室の中に誰かが入って来る足音が聞こえた。 間違いなくその者には、タケ子と命の姿が見えただろう。 それが証拠に、視線をしばらく感じた後、忍び足で出て行く気配があった。
もしかしたら噂になるかも知れない。 でもタケ子は構わなかった。
噂になったら、その時は堂々と公表してしまおう。 本気でそう思った。
タケ子は、命の唇を嘗め回しながら、自分の股間に溢れる物を感じた。 すでに、教室でも感じた絶頂の前触れ。
たかがキス。 しかしタケ子は、命のキスが特別である事を知っている。
「命のファーストキスの相手は、パパじやない。 私だからね。」
唇を放す事なく、タケ子は呟いた。それはまるで、その現実を口移しで命に伝えるかの様だった。
れ
命の力、おわり。