,り

屑男 撲滅委員会!

−ブラック・アイズ−

「とりあえず、自慢の肢体を全てへし折っておきましょうか...」

「な、ん」

 窓ガラスをぶち抜いて、サラメロウの頭に直撃したのは、ただの石。

 ダメージに体を揺らがせながら窓の外に視線を動かしたが、そこには誰の姿も見えなかった。

しかし、間違いなく側には誰かが居て、それが何者なのか解っている。

「雪之絵 真紀!!!」

 今、サラメロウは焼かれるような殺気を一身に受けている。 どこにいるのか分からない、殺気の主を探して辺りを見回した。 

 陸刀家のヒットマンである以上、雪之絵真紀の武勇伝はよく知っている。 しかし正直な所、「女一人が何だというのか。」サラメロウは少なからず、そう思う部分があった。

 だが、雪之絵真紀の殺気を感じるに至って、その恐ろしさを初めて理解した。

 サラメロウに限らず、ヒットマンと呼ばれる者達は、殺気や気配から隠密活動中の敵の居場所を察知する。

 その仕事柄、いくらでも殺気という物を感じた事があるが、それは誰の物であっても”身を切られる”と形容するのが相応しい。

 しかし、雪之絵 真紀の殺気はあまりに異質だった。

 熱く、

 息苦しく、

 感じるだけで体力を消耗する。

  それはまるで、皮膚から侵食する”炎”。

 そして、その殺気は、サラメロウの全身に纏わり付き、その感覚を歪ませる。

 事実、殺気を受けて、そこから雪之絵真紀の居場所を探ろうとしたサラメロウだったが、逆に自身の方向感覚を麻痺させられ、立っているのも辛い状態になっていた。

 

ここまで来ると、雪之絵 真紀の殺気は、立派な武器だ。

「...なんて事よ。」 サラメロウが全身に、じっとりと汗を滲ませながら、辺りを狂ったように見回している。 クラスメートには、サラが一人芝居している様にしか見えないだろう。

 サラメロウ達、陸刀のヒットマンが、命を拉致するために校舎の中を選んだ理由は二つある。

 一つ目は、陸刀アケミが言っていたように、人気のない場所で命を狙うと、逆に雪之絵真紀の闇討ちを食らうから。

 二つ目は、校門の外から校舎内を見張るのは難しい為、 雪之絵 真紀に行動を悟られる前に、命を拉致出来ると思ったからだ。

  しかし当の雪之絵真紀は、命が危なくなれば、すぐに助けられる体勢を整えていたらしく、さらに他人の目など一向に気にする様子もなかった。

 雪之絵 真紀はそれほど甘くはなかった。と言う事だ。

 サラメロウは、時間を無駄に使った事を初めて本気で後悔した。 今になってやっと判った、雪之絵 真紀と正面から戦うぐらいなら、武装した警官隊の方がまだマシだ。

「くっ、子供の喧嘩に親がでしゃばるなんて、見っとも無いわね!!」

 悪態ついてみても、事態が好転する訳もない。

 隠密中の雪之絵 真紀が、何時攻撃に転じるかと待っていたサラメロウだったが、当の本人は、まったく姿を表す様子はない。

 凶悪無比の雪之絵 真紀が何故動かないのか? 不思議に思い始めたサラメロウの耳に、パトカーのサイレンが小さく聞こえた。

 徐々に大きくなるサイレンの音。 なるほど、これは、雪之絵 真紀に取ってもタイムオーバーを示す音だったのだ。

 少しだけ、雪之絵真紀の殺気が、緩んだ。

 おそらく、『そのまま大人しく帰れば、逃がしてやる。』そう言いたいのだろう。 雪之絵 真紀も、警察に目を付けられるのを望まない。 警察が恐いのではなく、ただ自分の存在を知られて動きにくくなるのが嫌なのだ。

「まさか殺し屋の私が、警察に助けられるなんてね。」

 警察を有り難く思うのは、きっと初めてで最後だろうと考えながら、急いで手負いの皇金、太郎を担ぎ上げる。

 雪之絵真紀の殺気は、緩んだとはいえ今だ消えていない。

 どうやら、命の側からサラが離れるのを見届けてから、消えるつもりらしい。

 ここで命に手を出そう物なら、警察うんぬん関係なく、雪之絵真紀に襲われるのは間違い無い。

「まいったな、今回の任務の失敗は、ホントに私のミスだわ。」

 一言ぼやいた後、サラメロウは皇金と太郎を抱えたまま、踵を返し走り出す。

 廊下に出た時、命を心配して教室に戻って来たタケ子とすれ違う。

「ミコトが目を覚ましたら、私が”またね”って言ってたと伝えといて。」

「陸刀 加渓、あなたも、またね。」

 すれ違いざまのサラメロウの言葉に、タケ子は青ざめた。

”目を覚ましたら”

 「みこと!!」

 タケ子が叫びながら教室の中に飛び込むと、命が教室の真ん中で、嘔吐と粗相の上に倒れているのが見えた。

 だが、青ざめたタケ子の顔は、すぐに怒りの為に真っ赤に染まる。

 なぜなら、それまで大人しくしていたクラスメートが、倒れている命を物珍しそうに囲んでいたからだ。

 少なくとも、男達の目は、命の粗相した下半身に集中していた。

「みるな!!」

 タケ子は、怒声を発しながら命の周りにいた連中を男女問わず、殴りつけた。


前へ、   次へ、