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屑男 撲滅委員会!

−ブラック・アイズ−

『ホントに大丈夫よ。 今日のなんて、どーって事ないわ。』

 アケミがカズ子を安心させようとして言った、この言葉。  しかし、それを聞いたカズ子は、胸を押さえて膝から崩れ落ちる。

 『今日のなんて、どーって事ないわ。』

 そうだ。

 確かに今日なんて、アケミの思う『もっと辛い事。』に比べれば、そう言えるかも知れない。

 元々気丈で強気なアケミが、過去に二回だけ、人前で涙を流した事がある。

 そして、それは両方とも図らずも、カズ子が側にいた。

 その頃、カズ子はまだ中学校入学したてで、毎日を当たり前のように楽しく過ごしていた。

 その日も、春の日差しが暖かく、元々暗い感じのする鳳仙家の廊下が珍しく美しく見えている。 そんな普通の一日だった。

 学校から帰って来たカズ子は、屋敷の玄関で兄の鳳仙圭を見つけて、新しい学校の話を聞いてもらおうと捕まえる。

 当時、カズ子は、兄を理想の人間であると信じていた。

 兄と話をするのがとても楽しく、どうでも良い事でも、何でも話した。

「あのねっ、今日ね...」

 『お兄ちゃんが言った様に、雪之絵 命って子に声を掛けたよ。』

 そう言おうとした時、後ろの玄関の扉が吹き飛ぶ。

 木材とはいえ、入り口を守る頑丈な扉が木っ端微塵になって吹き飛んだのだ。 何事かと、身を固くしたカズ子が振り返ると、そこには見知った人物が立っていた。

 アケミだ。

「...妊娠したわよ。」

 その言葉を聞いた時、妊娠の相手が兄の鳳仙圭だと思ったカズ子は、反射的に兄の顔を見つめていた。

「 散々、色んな奴等にオモチャにされて!挙げ句に何よこれは!!?
誰の子供だか分かんないわよ!!」

 違った。

 違ったが、アケミの言葉をそのまま鵜呑みにする事は出来なかった。 カズ子の今生きている現実とは、幾らなんでも会話の内容が掛け離れ過ぎている。

「...産むわよ?」

 あっ、

「私、こんなだけど、子供産んで、ちゃんと育ててみせるからね!?」

 決心とも反抗とも取れるその言葉。

 その口調同様、強い意志が感じられた。

 青ざめるカズ子を余所に、ただ笑っているだけの鳳仙圭。

 初めて生まれた静寂の中。 鳳仙圭は、小さくクスッと笑った後、起伏のない口調で答えた。

「...別に良いんじゃないか?」

「男の中には、妊婦を使って遊びたい奴とかも、いるんだよ。」

「それに、生まれて来た子供が女なら、そいつも役に立つしな。」

『自分の子供を殺す親とか、私、絶対許せないわ!!』

そんな事件を、テレビのニュースが放送する度に、アケミは憤慨しながらそう言っていたが、

この日より、二度と口にしなくなった。


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