,り
「...何で?」
「加渓、家を出るってどうゆう事?」
「だから何で!? 中学半ばになって、今更寮暮らしなんて。」
「それに、お父さんが事故で病院で寝たきりになって、お母さん付きっきりの看病してて、 」
「私達二人が力を合わせて、生きて行かないと...」
「私、姉さんと暮らしたくないの!家族とか思われたくないの!! 行こうっ、カズ子!」
元々、水面下で広く伝わっていた『公衆便所の妹』という呼び名を、とある女の子が直接言った時、その女の子の顔面を打ち砕いたのが雪之絵 命だった。
思えば、カズ子が本当に命を好きになったのは、この時である。
「でもね? タケ子、いいえ加渓。 公衆便所の妹、その程度の事で傷ついていられるのは、アケミさんのおかげなんだよ?」
友達の命と、同性の女として放っておけないアケミ。 元々、この二人の内、どちらに手を貸すか決めなければならない時が来るのは解っていた。
それが、今だと思った。
「命、ごめんね? 」
「それと、この先、命に嫌われても怨まれても、加渓、あなたはアケミさんに恩を返さなくてはならない。 鳳仙の罪を背負った私と一緒にね。」
今まで迷っていた全ての事を振り払ったカズ子は、これより先、二度と 『タケ子』 と呼ばないと決めた。
「......」
立ち上がったカズ子は、アケミの消えたシャワー室に視線を送る。
まだ、水の音は聞こえない。