横一列に並び続ける部屋の扉を、一枚一枚蹴破って中を覗くと、その部屋の中には必ずテレビが置いてあり、そのテレビ画面には鳳仙圭の顔が映っていた。
もう、数え切れない程の部屋を覗き込んだが、今だに雪之絵命は見つかっていない。
行きがけの駄賃とばかり皆月京次が睨み付けると、鳳仙圭は目に見えて震え上がった。
皆月京次を監視するつもりの鳳仙圭だったが、今や完全に立場は逆転。 この皆月京次の目がある限り、雪之絵命に手出しする気にはなれない。
また、鳳仙家が雇ったSP達は、誰一人として、雀将と竜王を事も無げに抹殺て見せた皆月京次の行く手を阻もうとはしなかった。
『くっ、金で雇われた連中なんて、初めから期待していない!』
あからさまな強がりを言ってみせる鳳仙圭。
”金よりも生命が大事”それはその通りだろうが、雇われた者達もプロである。 ただ、皆月京次に勝ち目が無いという理由だけでは、こうはならなかったはずだ。
たとえば、雪之絵御緒史。
彼は、戦闘能力こそ皆無とはいえ、財閥を自分の力で維持する能力を持っている。
力とは、腕力に限らない。
突出した何かがあれば、カリスマとして人を引き付けるものである。
雪之絵御緒史、彼に雇われたのだとしたら、こんな事にはならなかったはずだ。
だが、鳳仙圭には何も無い。
これこそが一番の理由であるのだが、本人はそれに気が付いていない。
。
エデン母の姿を見止めた鳳仙圭は一瞬破顔しそうになった後、すぐに険しい表情になった。
『何故一人なんだ!? 他の家族達は何故いない!?』
エデン母の実力は竜王と同レベル。 彼女一人では皆月京次に勝てない事は既に証明されているのだ。
「今の私は、金で雇われたからここに居るのではありませんわ。 一人でここに来たのも同じ理由。」
そう、エデン母が皆月京次の行く手に立ち塞がったのは、自分の子供達を、鬼と化している皆月京次に会わせたくないが為。 それ一点に尽きる。
「私は、あなたと竜王さんの戦いを見た上で、ここに来たのですよ?」
最終話−前へ歩く− (その十二) 終。