痛え、
痛みで、意識が戻った。
戻ったはいいが、痛え。
雪之絵に、鉄パイプで殴られた右側頭部がズキズキ痛む。その痛みは治療の終わった歯にまで伝わって来る。
意識は戻った。しかし、耳鳴りが取れない。
閉じている目蓋を通して光が見える。どうやら辺りは、思いのほか明るいらしい。
俺は無理矢理、体に力を入れてみる。それで解った。またしても俺は後ろ手に束縛を受けていた。
「またかよ」と思ったが、この前とは少し違う。両足の束縛は無く、そのかわり後ろ手に縛られたロープは何処かに結んであるらしく、この場を動く事は叶わなかった。
しかし雪之絵め、何のつもりだ?帰って来るなりこんなマネをして。
「はぁ、」
....?
「はぁ、はぁ、」
何か聞こえる、耳鳴りが薄れるに従い何か聞こえて来る。
「はぁ、はぁ、いゃ...」
それは喘ぎ声、しかし、雪之絵の物ではない。
「はあ、はあ、ああ、」
俺は知っている、その声の主を。
俺は目を見開いて絶叫した。
「しおみな!!!」
俺がそこで見たものは、俺同様、後ろ手に縛られて雪之絵に責められる、詩女の姿だった。
「てめえ!!雪之絵!!やめやがれ!!!さもないとマジでころすぞ!!!!」
雪之絵の目か゜俺に向いた。
「ふーん?そんな口きいていいのカナー?」
ゆらり、雪之絵の腕が動いたと思った刹那、詩女の右の耳たぶから血が吹き出した。
「きやあああああ!!」
詩女の悲鳴、耳を突き抜けるは、でかいクギだ。
「今時、ピアスの穴も開けてないんだもんね、私が開けて上げる。」
そう言って、もう一本のクギを左の耳たぶに当てる。
「や..やめて....」
「やめろってんだろ!!!」
俺の叫びに一瞥くれた後、雪之絵はグリグリと、ねじり込む様にクギを突き刺した。
「あーーーーーーーっっっ!!!」
詩女の悲鳴と共に吹き出す赤い血、それを見ていた雪之絵の顔が禍禍しく歪む。
「やめろ...雪之絵。」
俺は声のトーンを落とした。今、雪之絵を刺激するのは得策ではないと判断したからだ。
それを聞いた雪之絵は、満足そうに立ち上がった。
「そうそう、京次は私の物なんだから、そうやって私の機嫌取ってればいいのよ。それが、こんな女に誑かされて...。」
「!?」
どーゆう事だ?なぜ、俺と詩女の事を知っている?
その疑問に答えるべく、雪之絵は自分のポケットから、チャラリと音を立ててネックレスを取り出した。先に円いペンダントトップのついたやつ、俺がいつも、今も身に付けている物と同一だ。
「京次が今付けているやつ、偽物なのよね。それ盗聴機付いてんの。」
俺は思わず胸元のネックレスを見つめた。
「京次コレいつも付けてるもんね、」
言いながら、指に掛かったネックレスをほおり投げる。
カチンと音を立てて床に転がる。あれは、俺のオヤジの形見だ。
「本当は京次の弱みを見つけるためだったんだけどね。そしたら昨日、この女がとんでもない事を言い出したでしょう?だから舞い戻って来たわけ。」
ぎょろり、と雪之絵の目が詩女に向けられる。今だ耳の痛みに喘ぐ詩女の髪の毛を掴み、グイっと顔を上げさせる。
「キスまでしちゃってさ...”お前のためならなんでも出来る”?バカじゃないの?好きという感情の中にあるのは欲望だけよ、欲しいか、欲しくないか、ただそれだけよ!」
俺は、つまらない雪之絵の持論には耳を貸さず、今の状況を知るために辺りを見回す。
ここは学校の体育館の中だ。初めに思った通り辺りは明るい、しかし明るいのは体育館の中だけで、窓の外はすでに真っ暗だ。
事を行うのに、何故雪之絵がワザワザこの場所を選んだのかは知らないが、とにかくここは目立つ。生徒達は居ないにせよ、当直の先公一人ぐらいは居るだろう。
「雪之絵!やめとけ!すぐにバレるぞ!」
「ヘーキよ、まあ一人当直の先生がいらっしゃったけど、今お寝んねしてるし。」
俺は息を飲んだ。お寝んねとは、俺の様にぶん殴られ昏睡していると言う事だ。雪之絵ならそれぐらいはやる。
「...どうして?どうしてこんな事を..私は京次に好きだって、言っただけなのに..。」
涙を流して、かすれた声でうったえる詩女。しかし、それが雪之絵には気に入らない。
「すき?この口が言うのね!?」
「!!」
雪之絵は、詩女の口の中に何かをねじ込む。
「ーーーーー!!」
グリグリと、容赦なくねじ込まれるソレは、雑巾だった。それがどこの雑巾かは、雪之絵の口から知らされる事になる。
「あんたの口は便所よ、キレーにしましょうね、この男子便所の雑巾でねごしごしと。」
「!!ーーーーーー!!」
イヤイヤをする様に頭を振るが雪之絵の力に及ぶべくもなく、口の中のあらゆる所を雑巾で拭かれていく。
「大人しくしなさい!あんま五月蝿いとひどい目見るよ!京次がだけどね。」
「!」
詩女の動きが止まった。そして静かになる。
「んー、いい子いい子、」
雪之絵は詩女の口の中を、あらためて念入りに拭きまくった。歯も、舌も、吐き気を催すほど奥も、ありとあらゆる口内を拭いて行く。
詩女は堪えている、涙を流しながらも、俺のために。
「詩女!!俺の事はいい!!逃げろ!!走れ!!」
俺は叫ぶ。詩女は、手枷はあっても足枷はない。そして俺の様にどこかに繋がれているわけでもない。走れば逃げられる。詩女は助かるのだ。
「ふーん、それは、いいよ。」
雪之絵は詩女を解放すると、俺の側にやって来た。そして、詩女の耳を貫いたのと同じクギを俺の右肩に突き刺す。
「!!」「あっ!!」
顔をしかめた俺と、口の中にあった雑巾を吐き出した詩女が同時に声を上げた。
「にげれば?そのかわり京次が痛いけど。」
雪之絵が軽く言い放つ、馬鹿にした様な目で。
詩女は、ふるふる、と弱弱しく頭を振った。
「いいってんだよ!!俺の事は!!大丈夫だから早く逃げろ!!」
強い口調の俺に対し、詩女は、今度は少しだけ強めに頭を振った。
「...ふーん」
雪之絵は片方の眉毛をぴくりと動かした後、おもむろに携帯電話を取り出し、ボタンを押した。
そして、いくつかの発信音の後、どこかに繋がった。
「あー、君寧明人センパイ?私、雪之絵真紀、覚えてるわよねえ。」
君寧明人!?
「そー、んー?別にィ?そんな事より、いい女一人あげるから今すぐ学校の体育館に来なさい。」
「!!!」
「何もたくらんでないって、女、好きにしていーんだって!ホントに!折角だからお友達誘っておいで、好きな事なんでもやっていいんだから、来なさいよ、来ないと後でひどいよ。」
話終えた雪之絵は、その携帯を床にたたきつけ、バキンと踏み潰した。
「さーて、君寧明人達が来るまで、十五分くらいかしら?どーする?にげる?」
ガタガタと体を震わせた詩女が、切羽詰まった表情で俺を見つめる。
「にげろ!!!」
...ふるふるふる、
詩女は、それでも頑なに頭を振った。
ニタリ、と悪魔の様な笑みで雪之絵は詩女に近づく。
「まったく、輪姦されるの解ってて止まるなんて、とんだ好き者よねえ、ま、いいんじゃない?どーせもう京次に処女は上げられないんだし。」
いきなり詩女のスカートを捲り上げる。そこには、詩女のまんこと、その中に収まっている黒光りしたドデカいバイブレーターが見えた。そして、流れる血は、処女膜の破れた証。
涙を流した詩女が視線をそらす。
「あははははははは、これ、上げるから大事にしなさいよ!この立派な物はあなたの初めての男よ!思い出は大切にしないとね!!あはははははははは!!」
笑っている雪之絵、しかし、途端に殺気を帯びたすさまじい顔に豹変する。
「....でも、昨日のキスは許せないわね。」
地の底から響くような口調。
ぞっとした詩女が脅えて雪之絵を見返す。
「私でさえ京次からは、してもらった事はないのに....」
汚らわしい、そう呟いた後、雪之絵は自分のスカートをたくし上げ、下着を膝まで下ろした。
「飲みなさい。」
「?」
「言ったでしょ?あなたの口は便所よ、飲みなさい。」
絶対的な命令口調と眼光、詩女は震えながら口を開けた。その口に雪之絵自ら自分のアソコを押し当てる。
「一滴もこぼすんじゃないわよ、こぼしたらひどいよ、京次がね。」
俺の目に二人が写る。詩女の視線が少しだけ俺を見て、きつく目蓋を閉じた。
「っっ!」
いつから始まったのかは分からない、しかし今、雪之絵の放尿を詩女が口で受け止めている。その勢いは強いらしく、ゴクゴクと喉を鳴らして、必死に飲み込んでいた。
「ふぅ」
雪之絵がため息を漏らす、終わったらしい。
雪之絵のアソコと詩女の口が離れる。
少しして、数秒で、詩女は、「うっ、」と声をもらして、 吐いた。
広がる黄色い液体、小便と胃液が交じり合ったその液体を詩女はゲロゲロと吐き続ける。
それを雪之絵は見てた。蔑んだ目で、さも嬉しそうな笑みを浮かべてそれを見てた。
一通り吐き終えて、詩女はゼーゼーと息を付く。
「あーあ、便所が壊れちゃった。だったら今度は掃除機よね。」
「!!!」
俺と詩女は同時に雪之絵を見つめた。雪之絵の言った意味が解ったから、俺と詩女は信じられないと言った視線を向ける。
「飲みなさいって言ったわよね、奇麗にしなさい、ピカピカになるまで全て飲み込むのよ。」
一切妥協はない、それはすでに詩女も分かっているはずだ。
今度こそ堪えられない、そう言った目で詩女は俺を見つめた。当然だ、しなくていい、してほしくない、逃げていいのだ。
だが俺は、何も言わなかった。言えば詩女は、今までそうだった様に、俺のために堪えようとするかもしれないからだ。
俺を捨ててもいいのだ、俺に愛想付かしてもいいのだ、俺は詩女に助かってほしいのだ。
しかし詩女は、少しの間目を閉じた後、
雪之絵の笑い声が響く。
「あははははははははははははははは!!!!!」
その足元で、床の粗相に口をつけてそれを吸う詩女がいる。
これを見て、俺は何を思えばいい?怒りか?憎しみか?
いいや、そんな生易しい感情などとっくに通り過ぎている、
俺の命に変えても、しなくてはならない事、詩女を救う事。
そして、俺の感情が行えと命じる事、それは、