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「 大人ってきたなーい。」
ガズ子とタケ子が冷めた目で見ているが、こっちは生命に関わっているのだ、気にしてはいられない。
計、三十万円の取り引き。 さしもの詩女も、その誘惑には勝てなかったらしく、緩んでしまった口元をバレないように引き締めながら、右手でOKサインを俺に作って見せた。
よし、 後は詩女がこの場から居なくなるまでの間、命に黙ってもらえば良い。
俺は、引き寄せた命の耳元に小さくささやく。
「いいか、命? 詩女の負けだ。しかし、敗者に鞭打つような事は言うなよ。 それが勝利者の礼儀だ。 分かるな?」
命は、コクリと肯いた。
「そうね、京次にそこまで言われたら、私の負けだわ。」
そう言った詩女だったが、笑みは禁じ得ない。 頼むから、さっさとどっか行ってくれ。
俺の邪念を感じ取ったのか、詩女の意味あり気な流し目が俺に向けられた。
その意味は、命には分からないと思うが、なんでもいいから、さっさとどっか行ってくれ。