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「いい?今日は私が調子崩して、一人では歩けないから、自分が率先して一緒に帰って来た。と言うのよ?」
アパートの前で高森と口裏を合わせた後、扉を開ける。
京次は部屋に居るらしく、愛用の黒い革靴が置いてあった。
「パパー?」
調子が悪い演技のため、いつもの様に高い声は張り上げない。 しかし京次には聞こえたらしく、廊下の先にあるキッチンから姿を表した。
「命?どうした。...高森?」
出かけるつもりだったのか、服装が膝まである黒のコートだ。
「お邪魔します、京次さん。今日は命さんが倒れられて、一人では歩けそうにないので、僕が率先して連れて帰りました。」
まんま、言われた事を口にする。 しかし、命が仮病使うなど考えてもみない京次は、素直に肩を貸す。
「そうか、そいつはすまなかったな。大丈夫なのか?命。」
本気で心配する京次に対し、命は本気で嬉しそうに笑って見せた。
「へーき。多分貧血かなんかよ。今は随分楽になったから。」
「そうか。」
少し疎外感を感じたのか、高森が自ら京次の視界の中に移動する。
「京次さん?お出かけですか?」
京次の服装は、明らかにお出かけ使用だ。
命の目が鋭く光る。 今出て行かれる訳には行かない。
「ああ、いや、昼食を外で取ろうと思っただけだが。」
「そっか、じゃあさ、私、高森に看病しててもらうから、
命の言葉は、たしかに京次の耳に入った。 しかし、続けざまの高森のセリフが、それを根こそぎ追い出した。
それは命も同じ事で、二の句も告げれずに棒立ちしている。
「おう?高森、食料用意してくれるのか?」
「はいっ!お任せ下さい。料理は超得意です!」
ぱー、と明るい笑顔で答えた後、「お邪魔します。」と一礼して、キッチンへと向かった。 近来見た事のない明るい笑顔と、可愛らしい口調だった。
「命、食事取れるか?」
「えっ!?あっ、うん!食べれる。へーき。」
元来必要のない肩を借りて歩く命は、先を進む高森の背中から目が離せずにいた。
「なんか、おかしいわ...。」