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キツチンはリビングと繋がっていて、京次と命はテーブルを前に、それぞれの指定席に座っていた。
そこに、上着を脱いだエプロン姿の高森が現れる。
「京次さん、命さんの居ない時はいつも外食なんですか?」
エプロン姿が板に付いている高森が、冷蔵庫の中にある材料と、使えそうな道具を確認しながら問い掛ける。
「そうだな、命がいる時は俺が料理してはいるんだが...」
「へえ、命さん料理不得意なんですか。 でも今時、女性が必ず家事をしなければならないなんて、ナンセンスですよね。 実際、僕の様に料理超得意な男もいますし。」
命の目が尖る。 しかし、言い返す事が出来ない。
「料理不得意。」ではなく「料理をしない。」と言われたら、「するわよっ!練習中!!」と抗議出来るし、「女の子なんだから料理くらい。」と言われれば、「男のくせに料理得意なアンタが言うな!!」と言い返す事が出来る。
しかし、高森は、命に反抗させない言葉を選びながら、きっちりと中傷しているのである。
「や、やっぱり、なんかおかしいわ...。」
「さてと、軽い物作りますから、時間はさほどかかりませんので。」
ガバンッ
ありものの材料から出来た料理は、京次でも知っている、ポピュラーな日本料理ばかりではある。しかし、その見た目の美しさは、今まで家庭の中では見た事がなかった。
詩女も、京次の実母も、自分自身も、命は言うに及ばず、これほどの物を作った者はいない。
絶句して料理を見つめる命。 「まー料理は味だし。」そう言ってやろうと思っていたが、そんな口を黙らせる出来栄えの料理が、視界を占領していた。