り
「すごいな、どれも美味いぞ。」
炒めものや出し汁など、純日本風の料理を次々口にしながら、京次が言う。 社交辞令ではなく本心でだ。
嬉しそうに笑みを浮かべていた高森が、
「おいしいですか?」
「....」
「おいしいですか?」
「....」
「おいしいですか?」
「おい、命?」
「おいしいわよぉー!!」
京次につつかれて、初めて答えるが、その目は涙を浮かべていた。
「そうですか、それはよかった。」 絶えない笑顔でそう言った高森は、自分の食事に取り掛かった。
「まあまあかな。」と小さく聞こえた台詞が、命をムカつかせる。
機嫌の悪い命を置いて、京次と高森が会話を楽しんでいる。命はそんな二人を見ながら考える。「たしか、パパにヤキモチ妬かせるために、高森を連れてきたはずだ」 と。
それが、なぜ自分だけ置いてけ堀食らって、目を三角にしてなければならないのか。
なぜ高森に、これほど怒りを覚えねばならないのか。
そんな事を考えていたせいか、何時の間にか、京次と高森の会話の雰囲気が変わっているのに気が付かなかった。
「でも、大勢で食事するのって楽しいですよね。」
「そうだな、賑やかなのはいいな。」
「僕、母がいないので、基本的に夕食とか一人で作って一人で食べてるんですよ。」
ため息まじりで視線を落とし、同様、声のトーンも落とす。
「そうか...
「ほ、本当ですか!?それなら料理僕が作ります!!」
「よろしければ、稽古もつけていただけませんか?料理以外でも掃除洗濯なんでもしますから。」
「ははっ、稽古はいいが、掃除洗濯は別にいいぞ。 あっ、分かった。命と一緒に家事したいんだな?」
「あははは、それは全然違いますよ!!」
ぜっ、絶対、なにかおかしいわっ。
確信持った時には、すでに後の祭りであった。