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京次との城であるアパートから高森を引っ張り出して、命は、近所に憚る事なく大声を上げた。
一方の高森は「全て思惑通り」といった態度をあからさまに見せていた。
冷ややかな薄笑いの中に感じた物、それに対し命の中の女が警笛を上げる。
「あっあんたっ。”やおい”!やおいってやつね!?」
「失礼ですね。僕の京次さんに対する想いは、もっと崇高です。何故なら、僕の精神は元々女性なのですから。」
「そう言われますか。でも、京次さんは、そんな風には言いませんでしたよ?」
命に取っては”やおい”より”オカマ”の方が不可解な物だ。そのため及び腰になってしまったが、高森の口から京次の名前が出て正気に戻る。
「まあ、無理もありませんね。体は間違いなく男ですから。」 高森の視線が落ちる。
命は別に罪悪感などは持たなかったが、高森の仕種は間違いなく女の物だと感じた。
「昔から変な目で見られ、その理由に気付いた時、僕は空手を習う事にしました。」
「でも、そこでも僕は気味悪がられ、孤立していたのです。」
命には、空手を習おうとした気持ちと、孤立という部分は理解出来た。
初めは母子家庭、その後は父子家庭。命も他人から奇異の目で見られ、嫌がらせを受ける事は珍しくない。
命は、これに打ち勝つには自身が強くなるしかない。そう思っている。
高森が空手道場に入門したのも、同じ意味合いだろう。
「そんな時でしたね。京次さんが声を掛けてくれたのは。」
「嬉しかったですねぇ。 でも、それからですよ。ずっとマンツーマンで京次さんに稽古つけてもらって、今現在の僕がいるのです。」
「パパは、高森がオカマだって知っているワケ?」
告白を冷静に聞いていた命の言葉。しかし言葉の内容ほど、口調に棘はない。
無論、京次とて、全てに対して寛大なわけではない。 しかし、高森に対しては偏見は持たなかった。
理由はしごく簡単。高森は生まれる前から精神は女だったからだ。
ゲイ、ホモと呼ばれる人達には二種類あって、先天性の物と後天性の物がある。
京次の場合、先天性に関しては女が男の着ぐるみ被っている、ぐらいの感覚でしかなかった。
それが正しいかどうかは別にして、そもそもが恋愛感情の乏しい京次にとっては、興味を示す問題ではなかったのだ。
「京次さんは、僕にとって本当の意味で恩人なのです。命さんが思われるような如何わしい気持ちは持ってません。」