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タンガタングステン製の超硬質義手義足は、サラメロウの鉄壁の盾であり、全てを破壊する棍棒である。
高森夕矢が侵入者三人の中で皇金が一番強いと勘違いしたのも、これが原因。 躍動感を感じる体だったのは、たしかに皇金の方。
しかしサラメロウの一撃は、決してオーバーではなく簡単にコンクリートの壁を貫ける威力を持っている。 素手の人間では、絶対に発揮出来ない破壊力。
命は後々、不用意な蹴りを行った自分を悔やむ事になるのだが、とにかくそんなサラメロウの一撃を食らって平気でいられるほど、命は人間ばなれしていない。
いや、命が本当にタケ子の言う”雌ライオン”であっても堪えられないだろう。 サラメロウの一撃は、たとえ相手が誰であろうと、受けた時点で終わりなのだ。
「う、うげぇ」 命は目を白黒させながら腹の中の物を全て吐き出した。
びちゃびちゃと床に溢す胃液、中に今朝食べたパンが混じっている。
「まだよ。」
サラメロウは、腹を抱えて崩れ落ちそうになった命の首根っこを捕まえて無理矢理立たせようとするが、命の足は震えるだけで力が入らず、現状サラの手にぶら下がっているだけだ。
「ミコト、勘違いしないでね? 確かに、私の腕と足は作り物で凶器でもあるわ。 でもね?」
「腕も足も、途中までは筋肉が残っていてね、それを鍛える事によって...」
「っあ...」
「ごめん、お腹より少し下、殴っちゃったね。」
サラメロウの二発目は、本人の言うように、命の下腹部にめりこんだ。
下着を物ともせず、音を立てて噴き出す小便は、両足を伝って床に水溜まりの様に広がって行った。
クラスメートの観ている前で、あまりに恥ずかしい姿。 しかし、恥ずかしがるのも、また後の事、サラの二発目を食らった時点で完全に意識を失いダラリと両手を下げた。
「ふん。」
サラメロウが手を放すと、命は前のめりに崩れ落ち、自分の嘔吐と粗相の中に倒れ込んだ。
とりあえず、生意気なガキにオシオキを終わらせたサラメロウは、この後の事を考える。
既に、命が暴れだしてから、十五分経っている。 タケ子が警察に電話を入れているだろうから、まもなく警官隊が来るはずだ。
もうそんなに時間は残されていない。
本当なら命をこのまま、拉致したい所だが、両腕義手のサラメロウは、命と、皇金、太郎の三人をうまく抱えて歩くなど器用な真似は出来ない。
命をこのままにして帰るのは危険だ。 少なくとも、命は皇金を一方的に撃破する力は持っている。 太郎はともかく、皇金はヒットマンの中でも指折りの実力者なのだ。
サラ自身が勝てたのも、感情をコントロール出来ない命の隙を付いたのが功を奏したと思っている。
もう一度戦う事になったら、ここまで簡単には行かないだろう。 少なくとも、命のスピードには付いて行けない。
「そうね、今回は作戦失敗だったけど、次回の為に戦闘不能なダメージあたえときましょうね。」