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「命、高森も、ここは俺一人に任せろ。」
言いながら、京次は前に出た。
「ちょっと待って下さい!!片手使えないのでしょう!?それで、まさかあの二人を一度に相手するつもりですか!?」
「まーな。 と言うか、お前達が乱入する前から、そのつもりだったんだって。」
高森には京次が正気とは思えなかった。 小判ザメの気配も読み取った京次なら、サラメロウと小判ザメの力がどれほどの物なのか、冷静に分析できるはずだ。
利き腕ではないとは言え、片腕が使えない状態で、まともに勝負できる相手でない事ぐらい解るはずなのだ。
京次は命の手前無理をしている。 高森にはそう思えた。
「いけません!!」
「そうよ!パパ!!別に無理しなくていいの!!」
命も、高森と同じ事を思ったらしい。
しかし、すがり付こうとした命を、京次が手で止める。
あまりに落ち着いた京次を見ながら、高森はやっと自分が勘違いしていたのではないかと思い始めた。
「...京次さん。奴等の実力の程、もしかして解っておられます?」
「ん?まあな。」
京次からは、今だに覇気も感じないし、殺気も感じない。 戦いに赴くオーラのようなものを微塵も感じない。
いつも道場で高森に稽古を付けるのと、何一つ変らない京次の雰囲気。
「命さん。僕は勘違いしてたかも知れません。」
「?」
「例えば羽虫を追い払う時、覇気を持ちますか? もしくは、雑草を毟る時、殺気をはなちますか?」
「京次さんに取っては、僕はおろかあの連中でさえ、羽虫や雑草と同じレベルなのではないでしょうか。」