,り
もう残っていないと思っていた小便が、ジョロッと音を立てて股間から流れ出た。 当然、先ほどまでの粗相とは意味合い違う。
もし、カズ子が体を自由に動かせても、恐怖の為に腰を抜かし、逃げ出す事は適わなかっただろう。 その代わりに、大きな鳳仙屋敷を物ともしない悲鳴を外まで響かせたはずだ。
カーテンの中から現れた男二人は、まぎれもなく財界の二人である。 そしてその顔は、廊下を引き摺られていた時と、まったく変わらない死者の表情だった。
違う。 この二人は確実に死んでいる。
強力な静電気を自在に操るマルキーニが、死者の神経に電気を飛ばし、思うが侭に動かしているのだ。
同じ方法で動きを封じられているカズ子だから、すぐにそれが解った。
「お母さんが言ってたの。 私には、死んだ人を蘇らせる力があるんだって。」
カズ子は合点が行った。
初めて廊下でエデンに会った時、死体を平気で引き摺っていたのも、『接待室』で、二人ともちゃんと生きてると言い張っていたのも、全ては人間の死と言うものを、正確に理解してないのが原因だ。
両親が殺し屋などしているのだから、その子供のエデンがまともな教育を受けていないのも肯ける。
また、屍を操っているのを、死んだ人を蘇らせたなどという狂言であっても、親の言う事ならば闇雲に信じてしまう年頃でもある。
悪い事をしていると思っていないのだから、どんな時でも無邪気に笑っていても当たり前だと思った。
それまで、おぼつかない足取りで辺りを徘徊していた二つの屍が、カズ子に顔を向けた。
「!!」
上気していた顔から血の気が引く。 もし寝転がった状態でなければ、きっと脳貧血でも起こした事だろう。
恐怖にかられ半狂乱になるが、体の自由が効かない今の現状では、そう見えない。
広いとはいえ、所詮は部屋の中だ、屍の二つは足を引き摺りながらも、すぐに側までやって来た。
死直前の表情を残した屍が視界を覆う。とても正視してはいられない。
カズ子はきつく目を閉じて、顔を背ける。
死人に触られる恐怖と嫌悪感。 そして愛撫と呼ぶにはあまりにお粗末な動きに、カズ子の体が反応する事はありえなかった。
しかし、その前にマルキーニが行った前儀の為に股間は塗れたままだ。
屍の手は、緩慢な動きで胸から下半身へと伸びていき、一本の指が、簡単にカズ子の膣内に滑り込む。
塗れた粘液の為に、その指は何の抵抗もなく入った様に見えた。 しかし、指が完全に埋没する手前で、ほんの一瞬、動きが止まった。
文字通り、大切な物を引き裂かれる絶望的な痛みと共に、カズ子は心の中で絶叫する。
しかし、喋ることの出来ないカズ子の叫びは、誰の耳にも届くことはない。
「ありゃ? お姉ちゃん、もしかして痛い?」
途端に泣きじゃくり出したカズ子の顔を、マルキーニが覗き込む。
しかし、見るべき場所はそこではない。
屍の指がめり込んだ股間。
一筋の赤い血が流れているのを、暗い部屋の中でもはっきりと見えたはずだ。
カズ子は、マルキーニの言葉など聞こえていないかのように泣きじゃくる。
実際、入ったのは指一本分なので処女膜の一部しか破れていない。
言わば少しだけ傷ついた状態なのだが、現時点でカズ子はその事に気が付いていなかった。